AIがDaVinci Resolveの手直しを上書きして消した出来事
箱荷こもるさんのやり方では、字幕の時刻や演出の位置をデータから計算し直し、部分的に直すよりも確実だという理由で、AIがタイムラインをまるごと作り直す。ただし、Resolveの画面上で手直しした箇所はそのデータに入っていないため、作り直すと消えてしまう。
実際にこの穴が表面化したのは九月中旬のある日だった。「メディアのゴミを消して」という指示をAIが取り違え、ひとつ前の版のタイムラインを三本消してしまった。箱荷こもるさんが「ゴミ」と言ったのはメディアオフラインの項目のことだったが、AIは別の意味で受け取ったことになる。
| 比較結果 | 対応 | 失うもの |
|---|---|---|
| 指紋が同じ | そのまま消して作り直す | なし |
| 指紋が違う | 日時を付けて改名し残す | なし(タイムラインが一本増える) |
| 指紋を保存していない | 手直しありとみなして残す | なし(安全側に倒す) |
| API経由で読めない要素 | 見分けられないため別途確認が必要 | 気づかず消える場合がある |
タイムライン自体は入力のデータから同じ手順で作り直せたものの、手で直した分は戻らなかった。このときの経験から、箱荷こもるさんは「メディアの状態をあとから変更すると、編集がなくなってしまう」と気づいたと振り返っている。言葉の受け取り方一つで、積み重ねた手直しがまとめて消える怖さを実感した出来事だった。
この出来事を受けて、AIが自動で作り直すタイムラインであっても人が手直ししていたら上書きしないこと、消してよいのはAI自身が作った試作とどこからも使われていない素材だけにし消す前に一覧を見せることという二つの規則を決めた。どちらも、作業を止める方向の規則であり、速さより安全を優先する選択だといえる。
一度きりの事故として片付けず、仕組みとして防ぐ方向へ進めている点は、AIに編集を任せる上で参考になる姿勢だといえる。同じ取り違えは、指示の言葉が人とAIの間でずれるたびに起こり得るからだ。
箱荷こもるさんが使っているAIは、Claude CodeとCodexの両方だ。二つのAIを使い分けながら同じタイムラインを扱う以上、どちらが作り直しても同じ規則が効くようにしておく必要がある。担当するAIが変わるたびに前提が崩れるようでは、仕組みとして使い続けられない。
規則を一度決めただけで終わらせず、仕組みに落とし込む姿勢は、個人の制作であっても再現性を持たせるための工夫だといえる。次に同じ場面が来たときにも通用する形にしてある点が、思いつきの対処と大きく違うところだ。
作った直後の「指紋」と比較して手直しを見分ける仕組み
人が手直ししたかどうかを、人に聞かずに見分けたい。そこで箱荷こもるさんが考えたのが、AIが作ったタイムラインの状態を作った直後に記録しておき、次に作り直す前に今の状態と比べるという方法だ。この記録を「指紋」と呼んでいる。
手順は五つに分かれる。作り直しの最後にタイムラインの指紋を取って保存し、次に作り直す前に今の指紋を取って保存したものと比べる。同じならそのまま消して作り直すだけで済む。
違っていれば、そのタイムラインを手直しの日時を付けた名前に改名して残し、新しいものを別に作る。そして、残した手直し版と新しい版の違いを一覧にして、写すかどうかを人が決める。どの段階で判断が入るかを分けて書いておくことで、途中の工程が曖昧にならずに済む。
この仕組みが成立するのは、外部のスクリプトからDaVinci ResolveのタイムラインをAPI経由で操作できるからだ。Blackmagic Design公式のDaVinci Resolve製品ページでも、新しいワークフロー統合・エンコードAPIによって開発者がワークフローや資産管理システムを編集ソフトと連携できると説明されており、今回のような外部スクリプトからの操作を支える前提になっている。
消さずに改名するという判断が、この仕組みの要点だと箱荷こもるさんは書いている。間違って「手直しあり」と判定しても、タイムラインが一本増えるだけで、何も失わない。安全側に倒す設計を選んでいることが、事故の再発を防ぐ力になっている。
判定を誤ったときに何が起きるかという視点から設計を見直す姿勢は、仕組みづくり全般に通じる考え方だ。正しく判定できる前提で作るのではなく、誤ったときの被害を小さくする方向で組み立てている。完璧な精度を目指すより、外れたときの被害を抑えるほうが現実の運用では効きやすい。
指紋の比較自体は地味な処理だが、これを挟むだけで、AIが作り直すたびに人の手直しが消えるという不安を取り除ける。自動化の便利さと、人の手を信頼できる状態を両立させる工夫だといえる。
指紋に含める具体的な項目や、実際に動かすコード例は、この記事ではマガジンの続きとして案内されている部分にあり、編集部ではそこまで確認していない。考え方と限界が無料部分で示されている点を、ここでは紹介の中心に据えている。仕組みの骨格が分かれば、自分の制作環境に合わせて細部を作り込む手がかりにはなるはずだ。
API経由では見分けられない手直しという限界
箱荷こもるさんは、この仕組みの限界も先に書いている。指紋はAPIで読める箇所しか見ていないため、見分けられない手直しが残る。どれだけ仕組みを整えても、見える範囲には限りがあるという前提は崩れない。
具体的には、FCPXMLで入れたテキストの文言、色の補正やインスペクタで付けたアニメーション・キーフレーム、Fusionの中のテキスト以外のツールの値は、指紋では捉えられない。トランジションについても、位置と長さと名前だけしか見ていないとされている。
指紋を保存していないタイムラインは、安全側に倒して「手直しあり」とみなす設計になっている。その分、手直し版が余分に増えることはあるが、消えるよりは増えるほうを選んだという判断は理にかなっている。
大きなタイムラインでは、指紋を取るだけでも時間がかかるという注意も添えられている。キャッシュが溜まった状態では五十分ほど返ってこなかったこともあったそうで、仕組みを使う前に自分の制作規模でどれだけ時間がかかるかを確かめておきたい。待ち時間が長くなるほど、作業の合間に挟む頻度も考え直す必要が出てくる。
この仕組みはDaVinci Resolve Studioの環境で、外部スクリプトからAPIを呼ぶ形で動かしているという。無料版のDaVinci Resolveでは試していないとも断られており、同じ構成をそのまま無料版で再現できるとは限らない。有償版を使っているからこそ試せた検証だという前提は、読む側も押さえておく必要がある。
手直しを新しい版へ写す作業も自動ではなく、違いの一覧を見て人かAIが判断して写す必要がある。仕組みが整っても、最後の判断を人が担う部分は残るということだ。自動化できる範囲と、人が見るべき範囲を分けて考える姿勢が、ここでも貫かれている。
対象になるのは、スクリプトやAIでタイムラインを作り直していて、同じタイムラインを人も手で直す人だと箱荷こもるさんは書いている。タイムラインを一度しか作らない人や、手で直した所をデータに戻して作り直したい人には、この仕組みは当てはまらない。
見出し画像や図解もAIで作成したと添えられている。仕組みそのものだけでなく、周辺の作業までAIと分担している制作のあり方が、記事全体の背景として見えてくる。
どこまでをAIに任せ、どこからを自分で確かめるかという線引きは、今回の指紋の仕組みにもそのまま通じる考え方だ。線引きを先に言葉にしておくことが、結局はいちばんの備えになる。
AI編集部のつぶやき