動画編集者のKANAさんが、ChatGPTやGeminiに編集の雑務を任せるときの指示文を、飾らずにそのまま見せてくれた。
構成案・サムネイル文言・図解の指示文
KANAさんは、四十代から動画編集とAIの使い方をゆるく発信している編集者だ。前の記事で紹介した動画編集でのAI活用の上位五つに沿って、実際に使っている指示文をほぼそのまま公開した。本人いわく、中身は限界ディレクターの普通のお願いリストに近い。
構成案づくりの指示文
一つ目は、構成案づくりの指示文だ。大前提として、依頼主の名前や個人情報は決して入れない。入れるのは、チャンネルの傾向、見てほしい人、避けるべき表現、そして依頼主からのざっくりした指示だ。
| 作業 | AIに渡す情報 | 頼み方の工夫 |
|---|---|---|
| 構成案 | チャンネルの傾向、見てほしい人、目的、依頼主の指示 | 個人情報や依頼主の名前は入れない |
| サムネイル文言 | ジャンル、方針、動画の内容 | 何案か出させて部品を拾う |
| 図解 | サイズ、配色、イラストの雰囲気、台本 | 見た目の条件を型にして使い回す |
| テロップ確認 | 文字起こし | 勝手に書き換えないよう釘を刺す |
| イラストの動画化 | 絵本風の画像と内容、終わりの画角 | 雰囲気を具体的な言葉にする |
KANAさんはAIに学習の仕組みがあることを理由に、個人情報を渡すと大変なことになりかねないと、冗談めかしつつ強く念を押している。便利さに慣れるほど、依頼主から預かった情報をそのまま貼り付けてしまいがちだ。何を渡さないかを先に決めておくことは、編集を請け負う人にとって信頼を守る最低限の作法だと思う。
例として挙げられているのは、妊活を扱うチャンネルのリール動画だ。見てほしいのは妊活中の女性で、あおる言葉は避け、体験談をそのまま伝えることを大事にしている。目的は登録者を増やすことではなく商品の販売だと書き添え、依頼主の短い指示と一緒にChatGPTへ渡す。
依頼主の指示は、ある部分を切り抜いてリール動画にしてほしい、というかなりざっくりしたものだ。これをゼロから自分で組み立てると頭がいっぱいになるので、まずは丸ごとAIに渡して構成案のたたき台を出してもらい、そこから自分の感覚で調整していく。
サムネイル文言の指示文
二つ目は、サムネイルの文言を考える指示文だ。チャンネルのジャンルと見てほしい人、あおらず共感してもらう方針、動画の内容を伝え、文言をいくつか提案してもらう。何案か出たら、これはいいかもという部品を拾い集める。一人で唸っていた時間を削るための使い方で、地味だが時短になるとKANAさんは書く。
図解の指示文
三つ目は、図解のスライドを作る指示文だ。横長のサイズ、白地に黒い文字、分かりやすく赤い文字を使い、イラストはアイコン程度、と見た目の条件を先に言葉にし、台本の該当部分を貼り付ける。条件を毎回ゼロから考えないよう、型にして使い回している。
もちろん出てきた図解をそのまま使うわけではなく、手直しをする。たたき台がある状態から始められることが一番の価値だ、とKANAさんは書く。
テロップ確認とイラストを動画にする指示文
変わったのは、時間のかかる確認作業だ。
テロップ確認の指示文
四つ目の指示文は、Google AI Studioでテロップを確認するためのものだ。音声のテロップ用の文字起こしを添付し、誤字や脱字、同音異義語の誤変換、漢字の誤りを見つけて直すよう頼む。以前は一、二時間かかっていた確認が、十分ほどで終わるようになったという。
この指示文の最後には、一文加えてある。勝手に文章を書き換えたり、自然な表現に直したりせず、間違っている部分だけを直すこと。AIは親切なので、気を抜くと、より美しい日本語に直しておきましたと台本を改変してくる。
この一文は、テロップ確認に限らず、AIに校正を任せるあらゆる場面で役に立つ。話し手の言い回しや、依頼主が決めた表現を守らなければならない編集の仕事では、直してほしい範囲と直してほしくない範囲を分けて伝えることが、手戻りを防ぐいちばんの近道になる。
イラストの動画化の指示文
五つ目は、KANAさんが一番気に入っているという、イラストを動画にする流れだ。まずChatGPTに、前回とは別の世界観で、絵本風の親しみのあるタッチ、横長、文字なしのイラストを、紙芝居のように物語になる形で数枚作ってもらう。動画の冒頭で視聴者に感情移入してもらうための素材だ。
次に、できた画像をGeminiに渡し、動かしてほしい、最後は寄りの画角で終わりたい、と内容と一緒に伝えて動画にしてもらう。Gemini Appsの公式ヘルプは、文章、画像、動画を組み合わせて発想を形にできると動画生成を紹介している。静止画を起点に短い動きを作るこの使い方は、公式が想定する使い方の延長にある。
ここでのコツは、絵本風や紙芝居風といった雰囲気のイメージを、ちゃんと言葉にしておくことだ。ふわっとした指示を出すと、見事にふわっとした謎の動画が返ってくる、とKANAさんは書く。
画像を起点にする場合、動かしたい素材そのものの権利も確かめておきたい。Gemini Appsの公式ヘルプは、アップロードする写真は使う権利のあるものに限るよう注意している。自分でAIに作らせたイラストを使う今回の流れは、その点でも扱いやすい。
こうして並べると、使われている言葉に難しい専門用語が一つもないことに気づく。こういう理由で、こういう雰囲気で、これはやらないで。チームの仲間に仕事をお願いするときと同じことを、AIにも言葉にして伝えているだけだ。
指示文を型として保存し、AIと人で役割を分ける
編集を請け負う人がまず真似したいのは、依頼主の指示と一緒に、チャンネルの傾向、見てほしい人、避ける表現、動画の目的をセットで渡す型だ。目的が登録者なのか販売なのかを一言添えるだけで、構成案の方向がかなり変わる。個人情報や依頼主の名前を入れないことも、型の一部として決めておきたい。
次に、テロップ確認の指示文は、自分用の決まった文として保存しておくといい。誤字、脱字、誤変換、漢字の誤りだけを直し、表現は変えない。この条件を毎回書き足すのは面倒なので、最初から一文にまとめておけば、確認のたびに迷わずに済む。
それでも、AIの確認をそのまま納品に使うのは避けたい。固有名詞や専門用語は、AIが正しいと判断しても間違っていることがある。確認の時間が短くなった分、名前や数字や専門用語だけは自分の目でもう一度見る、という役割分担にしておくと安心だ。
サムネイルの文言や図解は、AIに完成品を求めるより、部品を拾う場として使うほうが向いている。何案か出させて気に入った言い回しを組み合わせたり、図解の配置だけ参考にして自分で描き直したりすれば、AIらしい無難さを残さずに済む。
イラストを動かす工程では、動画の最後の画角のように、終わり方を指定しておくと編集でつなぎやすい。紙芝居の一枚ずつを短く動かして並べるなら、それぞれの終わりの構図が次の絵に自然につながるかを先に考えておくと、編集ソフトでの調整が楽になる。
KANAさんは、自分でやったほうが早い病を発症しがちな自分でも、AI相手なら気を遣わずに何度でもやり直しを頼めると書く。人に頼むと遠慮してしまう修正も、AIなら納得いくまで出せる。この気楽さが、雑務をAIに移すうえで意外と大きい。
編集の仕事は、映像を切ってつなぐ時間より、考える時間や確認する時間のほうが長いことが多い。そこを少しずつ軽くしていけば、浮いた時間を肝心の編集判断に回せる。特別な技術がなくても、今日から始められる。
なんとなくを、ちゃんと言葉にする。それだけでAIは文句も言わずに働いてくれる相棒になる、とKANAさんは締めくくる。
AI編集部のつぶやき