再生数以外で成果を語る
営業とカスタマーサポートの現場を知るくおんさんは、企業YouTubeをゼロから立ち上げ、その実態を検証しながら発信している担当者だ。これまで企画、撮影、編集、公開、分析の各段階について記事を分けて書いてきた。今回はその総まとめとして、制作の流れとは別に自分の中にできていった三つの心構えを整理している。
まず、これまでの流れが五つの対比で振り返られている。企画は最初からバズを狙うのではなく、営業やサポートに届く顧客の悩みを型にする。撮影はいきなり高級な機材をそろえるのではなく、手持ちの機材にライトとマイクを足せば十分だ。
| 段階 | 避けたいこと | くおんさんの方針 |
|---|---|---|
| 企画 | 最初からバズを狙う | 営業やサポートに届く顧客の悩みを型にする |
| 撮影 | いきなり高級な機材をそろえる | 手持ちの機材にライトとマイクを足す |
| 編集 | 全自動のテロップに頼る | 場面ごとに使い分け、要点だけを文字にする |
| 公開 | 投稿して放置する | 社内周知、自社サイト、営業資料への埋め込みまで行う |
| 分析 | すべての数値を追う | クリック率と視聴維持率の二つに絞る |
編集は全自動のテロップに頼るのではなく、場面ごとに使い分け、要点だけを文字にする。公開は投稿して放置するのではなく、社内への周知、自社サイト、営業資料への埋め込みまでを一連の作業にする。分析はすべての数値を追うのではなく、まずクリック率と視聴維持率の二つに絞って改善する。
どれも派手さはないが、兼務で動画を担当する人がつまずきやすい所を押さえている。特に公開の段階で社内や営業資料への埋め込みまでをセットにしている点は、企業の動画ならではだ。見てもらう場所をYouTubeの中だけに限らず、事業の導線に組み込んでいる。そのうえで、一人で抱え込みながら続ける中で身についた三つの心構えが、この記事の中心になっている。
くおんさん自身、会社の中にはYouTubeはたくさん再生されるものというイメージを持つ人が多く、自分もそうだったと認めている。今でもその観点は抜けないし、見てもらってこそのコンテンツでもある、と正直に書いている。理想論ではなく、揺れながら出した結論だという。
それでも大事にしていたのは、営業が商談で動画を使って成約につながった、というような事業への貢献のほうだった。数字の大きさより、その動画がどんな目的のもので、誰の役に立ったかを社内に伝えるようにしている。評価の物差しを、担当者の側から提示し直しているわけだ。
見る数字はクリック率と視聴維持率だけ
変わったのは、担当者が自分で評価の軸を持つようになったことだ。企業のYouTubeは、再生数が少ないと失敗だと見られやすい。しかし、見込み客や既存の顧客に向けた動画は、そもそも大勢に見られる必要がない。狙った相手に届き、商談や問い合わせで使われれば、それで役目を果たしている。
二つ目の心構えは、完成度より続けることを優先することだ。完璧を目指すと、企画や編集の途中で手が止まり、本業を圧迫してしまう。完璧主義から抜け出せない自分には少しつらいと書きつつ、多少粗があっても伝えたいことが伝わっていればいい、と割り切ったことで、続けることがぐっと楽になったとしている。
もちろん品質をあきらめたわけではない。効率化を考え続けながら、もっと質を上げる方法は日々探っているとも書いている。続けられる水準で出しながら、少しずつ上げていく、という折り合いのつけ方だ。
三つ目は、綺麗に整えることより、泥臭い試行錯誤を見せることだ。整ったプロ風の広告動画より、現場のリアルな苦労や手触りのほうが、結局は自分たちらしいコンテンツになり、見る人にも届くと感じているという。この取り組みが、いずれ自社ならではの味になると確信している、と言い切っている。
数字との付き合い方にも、この心構えは通じている。YouTube公式ヘルプは、クリック率は十分なインプレッションが集まってから見るべきで、投稿直後に確認するのは避けるよう案内している。また、クリック率の小さな変動はすぐに手を打つ理由にはならないとも説明している。
見る数字をクリック率と視聴維持率に絞るという、くおんさんの分析の方針は、この公式の考え方とよく合っている。数字を増やしすぎると、どれを直せばいいのかが分からなくなり、投稿のたびに一喜一憂することになる。見る数字を減らし、見る時期を決めることが、続けるための工夫になる。
記事の後半では、制作の流れが整った後にぶつかった、社内特有の壁にも触れている。予算や時間を認めてもらうための説明や稟議の通し方、動画を見た人を問い合わせにつなげる導線の設計、撮影や出演を嫌がる社員にどう気持ちよく協力してもらうか。どれも動画づくりのノウハウとは別の悩みだ。
くおんさんは、自分は欲張りな人間のようだと笑いながら、問い合わせにつなげたいだけでなく、商品を理解してもらう情報源にもしたいし、会社の認知や信頼にもつなげたいし、再生数が低いままなら対策もしたい、と本音を並べている。
完成度より続ける基準の決め方
企業の動画担当者がすぐに試せるのは、動画ごとに目的と届けたい相手を一行で書いておくことだ。この動画は商談の前に見てもらうもの、この動画は導入後のつまずきを減らすもの、と決めておけば、社内に報告するときに再生数以外の成果を語れる。
そのうえで、営業やサポートの担当者に、動画をどこで使ったかを聞いて記録しておきたい。商談で見せた、問い合わせの返信に貼った、資料に埋め込んだ、といった使われ方が、企業の動画の本当の成果になる。数字だけの報告より、社内の理解はずっと得やすくなる。
数字を見る場合は、見るタイミングを決めておくのが効果的だ。YouTube公式ヘルプが案内するように、投稿直後のクリック率は判断材料として不十分なので、一定の期間が過ぎてからまとめて見る。毎日の数字に反応して、タイトルやサムネイルを頻繁に変えるのは避けたほうがいい。
続けることを優先するなら、完成度の基準を先に決めておくと迷わない。伝えたいことが伝わっているか、音が聞き取れるか、社名や商品名に誤りがないか。この三つを満たせば公開する、というように最低限の基準を決め、それ以上の磨き込みは余裕のあるときに回す。
撮影機材も、いきなり高価なものをそろえる必要はない。くおんさんの言うとおり、手持ちの機材にライトとマイクを足すだけで、見やすさと聞きやすさは大きく変わる。予算の稟議を通す前に、まず手元の道具で続けられることを示すほうが、社内の理解も得やすいだろう。
泥臭い試行錯誤を見せるという心構えは、動画の中身にも使える。完成された紹介動画だけでなく、現場の担当者が顧客の悩みに答える様子や、失敗から改善した過程を見せる動画は、整った広告より信頼を生みやすい。企業らしさは、飾らない部分に出ることが多い。
一方で、社内の協力を得ることは簡単ではない。出演を嫌がる社員がいるなら、顔を出さない構成や、声だけの参加から始めるなど、負担の小さい関わり方を用意したい。くおんさんは、社内調整の話を次回書くと予告している。
企業のYouTubeは、個人の人気チャンネルとは勝ち方が違う。再生数で比べるのをやめ、事業の中でどう使われたかを自分で語れるようになれば、担当者は数字に振り回されずに続けられるはずだ。
AI編集部のつぶやき