映像制作会社の代表、株式会社OneTrackの松尾諒介さんが現場職の企業を横断して調べたところ、過半数の動画がごく少ない再生数にとどまり、社員一人に密着した動画は中央値が大きく上回り、いちばん多く作られている中くらいの長さの動画が最も見られておらず、公開本数と再生数はほぼ無関係だった。
松尾さんは、再生数は採用の成果ではないと念を押している。応募が何件来たか、何人決まったかは再生数からは分からず、再生数が少なくても、見た一人が入社していれば、その動画は成功だとしている。
分布:過半数はごく少ない再生数
調査したのは、採用動画や採用向けの交流サイト運用を手がける株式会社OneTrackの代表、松尾諒介さんだ。介護、清掃、警備、製造、運送、建設、保育など現場職の業種に絞り、各社がYouTubeのチャンネルで公開している採用関連の動画を集めて、再生数を公開ページの表示値で記録した。
映像制作会社の立場なら、誰も見ていないという言葉には反論したくなる。けれど松尾さんは、自社で作った動画の数字は知っていても、業界全体がどうなっているかは知らなかったと書く。反論する材料を持っていなかったから、数えた、というのが調査の出発点だ。
| 観点 | 調査で分かったこと | この数字だけでは言えないこと |
|---|---|---|
| 全体の分布 | 過半数がごく少ない再生数にとどまる | その動画が採用に効いたかどうか |
| 動画の型 | 社員に密着した動画が見られやすい | 密着型なら必ず応募が増えること |
| 動画の長さ | 中くらいの長さがいちばん見られていない | 短い動画の再生数に広告が含まれるか |
| 公開本数 | 本数を増やしても再生数は伸びていない | 伸びない理由が作り込みの差かどうか |
結論は、言われたとおりだった、というものだ。集めた動画の過半数が、ごく少ない再生数にとどまっていた。一方で、ごく一部の動画だけが桁違いに見られており、その少数の動画が全体の再生数の大半を占めていた。
そのため、平均の再生数を出すと実態よりずっと大きな数字になる。平均は一部の大ヒットに引っ張られ、真ん中の動画の再生数とは大きくかけ離れる。採用動画の平均再生数という数字を見かけたら、この構造の上に乗っていることを思い出してほしい、と松尾さんは書いている。
業種による差も大きかった。比較的見られている業種がある一方で、ほとんど見られていない業種もあり、中には一定の再生数を超えた動画が一本もない業種もあった。同じ採用動画でも、業種によって期待できる数字の水準がまるで違うことが分かる。
調査では、個別の会社名や動画名は出していない。特定の会社を晒すための調査ではない、という姿勢が明記されている。数字の扱い方だけでなく、調べ方についても丁寧に書かれている。
採用動画は、作ること自体が目的になりやすい。一本作って公開したら終わり、再生数は見ても何となく少ないと感じるだけ、という会社も多いはずだ。業界全体の分布が見えると、自社の数字がどのあたりにいるのかを初めて落ち着いて判断できるようになる。
調査は、各社のチャンネルの一覧から集められる範囲に限られている。自社サイトへの埋め込みや、限定公開、社内向けの動画は含まれていない。あくまで公開されている採用動画の姿を切り取ったものだという前提も、記事の中ではっきり示されている。
見られている動画の共通点は密着型
見られている動画には共通点があった。社員一人に密着した動画は、そうでない動画に比べて再生数の真ん中の値が大きく上回っていた。よく見られている動画の多くも、密着型だった。
会社紹介の映像と、一人の社員の一日を追った映像。制作の手間はそれほど変わらないのに、見られ方には大きな差が出る。採用動画で何を撮るかを決めるとき、この差は無視できない判断材料になる。
尺との関係も予想と違っていた。短いほど見られるわけではなく、短い動画と長い動画が比較的見られ、いちばん多く作られている中くらいの長さの動画が、いちばん見られていなかった。短くまとめれば見てもらえるという前提は、少なくともこの調査では支持されなかった。
本数は効かない
そして最も意外だったのが、本数を増やしても再生数は伸びていなかったことだ。公開本数と再生数の関係はほぼ無関係か、わずかに逆向きで、たくさん出している会社の真ん中の値は、全体より低かった。まず本数を増やしましょう、という提案には根拠がないことになる。
松尾さんはその理由を、続けるうちに一本あたりの作り込みが薄くなるか、同じ型を繰り返しているのではないかと推測している。これはあくまで推測だが、量を追うことが質の低下と表裏一体になりやすいという指摘は、動画運用に関わる多くの人に思い当たるところがあるはずだ。
この数字で言えないこと
この調査の数字を読むうえで押さえておきたいのが、YouTubeの再生回数の数え方だ。YouTube公式ヘルプは現在、公開の再生回数は、ショート動画、長尺の動画、ライブ配信を含むすべての形式で、動画の再生が始まった時点で数えられると説明している。
公開ページの再生数は、どれだけ最後まで見られたかではなく、どれだけ再生が始められたかに近い数字だ。調査が扱っているのは、採用動画がどれだけ候補者の目に触れて開かれたかであり、内容が伝わったかどうかまでは分からない。
短い動画で再生数が多いものについては、広告配信の可能性も指摘されている。広告費をかけた形跡があるものを、短く作れば伸びると読むと間違える。広告なしで上位に来ているのは、むしろ長い密着型だという観察も、数字の読み違いを防ぐための大事な注意だ。
発注する側の使い方
制作会社の立場でこの記事を読むと、まず胸に刺さるのは、この記事はうちの営業をやりにくくする、という一節だ。採用動画を作る会社が、採用動画は見られていないと書く。それでも公開したのは、再生数を約束する制作会社に発注してほしくないからだ。
見られていない動画が多数派の世界で、話題にしますと言える根拠はどこにもない。言えるのは、密着で撮ると見られやすい、尺は短ければいいわけではない、本数は効かない、という程度のことだ。この控えめな結論が、発注する側にとっていちばん役に立つ情報になる。
発注する側が見るべき指標も整理しておきたい。YouTubeの公開再生回数は再生が始まった時点で数えられるので、どれだけ見られたかを知るには、管理画面の視聴時間や視聴者維持率など、別の指標も合わせて確認する必要がある。
採用動画の目的は、あくまで応募や入社につなげることだ。再生数の目標を立てる前に、応募の窓口で動画を見たかどうかを尋ねる、面接で印象に残った場面を聞く、といった小さな確認を仕組みにしておくと、動画が採用にどう効いているかを数字以外の形でも追える。
撮る内容を決める段階では、会社の紹介より、一人の社員の一日を追う構成を検討する価値がある。現場職の採用では、仕事の中身や職場の空気が伝わるかどうかが、応募の判断を左右しやすい。密着型が見られやすいという観察は、その裏付けの一つとして読める。
尺についても、中くらいの長さに無難にまとめる前に、何を伝えたいかから逆算したい。短い動画で入り口を作り、長い密着で深く知ってもらう、という組み合わせも考えられる。調査の数字は、尺を決める根拠を感覚から一歩前へ進めてくれる。
松尾さんは、まず一本置いてみて、自社の数字がこの分布のどこに入るかを見てから決めるのが、いちばん損が少ないと書いている。いきなり大量に作るより、一本の結果を分布と比べて次を考える。この順番は、採用動画に限らず企業の動画運用全般に通じる考え方だ。
調べて確かめたことだけを書く、という姿勢が記事全体に一貫している。都合のよい数字だけを並べる記事が多いなかで、自分の商売に不利な数字と、その数字で言えないことを並べて示している。
AI編集部のつぶやき